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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)2840号 判決 1999年3月26日

控訴人(原告) 鹿島興産株式会社

右代表者代表取締役 A

控訴人(原告) X1

右両名訴訟代理人弁護士 西村文茂

同 村上公一

被控訴人(被告) 株式会社ネオ・ダイキョー自動車学院

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 辻川正人

同 酒井紀子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決主文三、四項を次のとおり変更する。

被控訴人が平成九年三月二八日開催の臨時株主総会において行った原判決別紙記載の決議案を可決する旨の決議を取り消す。

2  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

原判決五頁六行目の「原告会社」を「控訴人鹿島興産株式会社(以下「控訴人会社」という。)」と、同行の「原告X1」を「控訴人X1(以下「控訴人X1」という。)」と、同一九頁四行目の「さくら銀行」を「株式会社さくら銀行(以下「さくら銀行」という。)」とそれぞれ改めるほか、原判決の「第二 事案の概要」のうち、原審丙事件に関する部分に記載するとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、原審丙事件についての控訴人らの請求は、原判決が認容した限度で理由があり、その余は失当であると判断するが、その理由は、次に付加訂正するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」のうち、原審丙事件に関する部分に記載するとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五二頁七行目の「二三〇株」を「三〇七株」と、同八行目の「第三回総会議決」を「第三回総会で、本件免除決議案」と、同五四頁一〇行目の「で認定した」を「のとおりの」とそれぞれ改める。

二  同五五頁一行目の次に行を改め、次のとおり加え、同二行目の「9」を「10」と改める。

「9(一) 控訴人らは、当審において、大要として、次のとおり主張する。

(1)  取締役に対する免責決議は、会社が取締役に対する損害賠償請求権を放棄する効果をもたらすものであり、会社に不利にして取締役に有利な行為であるから、少なくとも取締役の責任が肯定される蓋然性が高い場合には、格別の強い合理性が存しない限り、これを著しく不当であると評価すべきであり、かつ、当時、Bに対しては、別件訴訟において取締役としての責任の有無が審理されていた時期であり、既に第一審判決において取締役としての責任が明確に肯定されていたのであるから、第一審判決の判断結果を無視する内容の免責決議を行うことは、決議の内容及び時期からみて相当でない。

(2)  Bは、本件取引を承認した取締役会(以下「本件取締役会」という。)において、議長を務めたものであるところ、取締役として、本件免除決議案の問題性を認識できたはずであり、かつ、代表取締役の行為を監視する権限と義務を有していたにもかかわらず、代表取締役提出の議案について、慎重に審議し、法令定款に違反する違法な決議を阻止する権限を行使せず、漫然と機械的に裁決したのであって、中立性をよそいながら、Cに協力加担したもので、監視義務違反があり、他の取締役に比べて特に行為の責任が低く、あるいは特に酌むべき情状があるとは言い難いから、Bに対する免責決議が著しく不当でないとする理由が乏しい。

(二) しかしながら、

商法二四七条一項三号にいう「著しく不当な決議がなされた」か否かについては、当該取締役の会社での地位や権限、会社の経営等についての関与の有無及び程度、当該取引に対して果たした役割、会社が右取引をなすに至った経緯や目的及び当該取引が会社に与える効果等についての知識の有無及び程度等の諸事情を考慮して、一般的に、当該取締役について責任を免除することが不合理なものであったか否かの観点から判断するのが相当である。

しかるところ、

(1)  第三回総会決議がなされた当時、Bに対しては、別件訴訟において取締役としての責任の有無が審理されていた時期であり、既に別件訴訟における第一審判決(甲四九)において取締役としての責任が肯定されていたものの、右第一審判決では、Bは、本件取締役会で、本件取引に関する決議に際して議長を務めていて、その採決には参加せず、また、右決議に先立ち、賛成も反対もしないとの中立の立場を表明していたから、他の四名の取締役の場合とは異なり、Bは商法二六六条二項、三項には該当せず、同人に対して、同条一項四号の責任は問い得ないとされたが、他方、Bの被控訴人での地位や立場等からして、同人は、過失によって取締役会に上程された利益相反行為たる本件取引に関する監視義務に違反したものと認められるから、商法二六六条一項五号による責任があると判断されたものであり、左記(2)認定のとおりのBの被控訴人での地位権限、本件取引への関与の程度等に加えて、別件訴訟における第二審判決(甲七四)において、Bの商法二六六条一項五号による責任が否定されたことをも考え合わせれば、第三回総会決議がなされた当時、Bに対しては、取締役の責任が肯定される蓋然性が高かったとは必ずしも断定し難い。

(2)  <証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、

① Bは、測量設計業を営む株式会社関西リースコンサルタントの代表取締役であり、Cとは、昭和五一年ころに知り合い、被控訴人設立時に、Cに求められ、株式一〇株を引き受けて、その株主となるとともに、取締役に就任し、役員報酬の支給を受けていたものの、Cに請われ、平成九年一月二二日に被控訴人の代表取締役に就任するまで、被控訴人の非常勤の社外取締役であって、被控訴人の実務に関与する事はなかったもので、本件取引についても、その詳細について予め知らされておらず、本件取引が被控訴人に損害をもたらすことについての知識はなかった。

② Bは、本件取締役会の席で、本件取引の詳細を知ったが、右取引は、不動産鑑定士による鑑定評価書を基にしてなされたものであり、格別問題があるとは考えなかった。

③ Bは、本件取締役会において選出されて議長に就任し、商法二六五条に基づく本件取引の承認についての議題について、その議長を務めたものであるところ、取締役会の議長の権限については、商法及び被控訴人の定款には規定がなく、取締役会でも議長の権限についての決議もされておらず、Bの議長としての権限は最小限の司会者としての権限にとどまるものであった。

④ Bは、本件取締役会において、議長として、本件取引について慎重に審議するように告げて、本件取引を議決に付したが、自らは議長としてその採決には参加せず、また、右決議に先立ち、賛成も反対もしないとの中立の立場を表明していた。

ことを認めることができ、右事実によれば、Bが、本件取締役会の議長として、同④の行為をなしただけで、それ以上に本件決議により本件取引が承認されることを阻止すべき措置を講じなかったとしても、取締役としての監視義務を怠ったことになるとはにわかに言い難いし、Bの被控訴人での地位権限、本件取引についての関与の程度、本件取引が被控訴人に損害をもたらすことについての知識の欠如等に照らせば、本件取引に関する取締役としてのBの行為の責任は、他の取締役に比べて、その程度が低く、情状において酌むべきものがあったということができる。

以上(1)、(2)に照らせば、Bに対し、取締役としての同人の責任を免除する旨の第三回総会決議が著しく不公正なものであったということはできない。」

第四結論

以上の次第で、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法六七条、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 神吉正則 亀田廣美)

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